使っていない古い建物をどうするか|耐震診断の前に整理したい再利用の判断軸
旧本社、旧工場、旧店舗、旅館、倉庫など、企業が保有する既存建物には、
現在使われていないものもあれば、使ってはいるものの十分に活用しきれていないものもあります。
こうした建物について、
- 改修して引き続き使いたい
- リノベーションして別の用途に使いたい
- 空いている部分を活用したい
- 建物に新たな付加価値を持たせたい
と考える場面は少なくありません。
その際、構造設計事務所への相談では、
「まず、この建物の耐震性を調べたい」
というところから始まるケースが多くあります。
古い建物であれば、耐震性が気になるのは当然です。
ただし、ここで一つ整理しておきたいことがあります。
耐震性が分かれば、その建物を今後どうするかまで判断できるわけではありません。
耐震診断は重要な調査の一つですが、既存建物の再利用、リノベーション、
用途変更、付加価値向上を考えるうえでは、それ以外にも確認すべきことがあります。
「まず耐震診断」だけでは、判断が進まないことがある
特に昭和56年以前の旧耐震基準で建てられた建物では、
「まず耐震診断をしてみよう」という流れになりやすいと思います。
しかし、耐震診断を行い、
「耐震性能が不足しています」という結果が出たとしても、それだけでは、
- どの程度の補強が必要なのか
- 補強すれば予定している用途で使えるのか
- 法規上の問題はないのか
- 建物の劣化はどの程度なのか
- 改修にどの程度の費用がかかるのか
までは分かりません。
逆に、耐震性について一定の評価ができたとしても、
それだけで建物全体の問題が解決するわけでもありません。
耐震診断は、あくまで
建物の今後を考えるための判断材料の一つ
です。
診断そのものが、再利用や改修の可否を決めてくれるわけではありません。
古い建物では「問題があるか」より「どの程度か」が重要
古い建物について相談を受けていると、
「調べてみたら、実はそのまま問題なく使えるということはありませんか」
という期待を感じることがあります。
もちろん、実際に調査や検討をしなければ分からないことはあります。
一方で、
- 旧耐震基準で建てられている
- 長期間使用されていない
- 既存図面が十分に残っていない
- 増改築を繰り返している
- 建物の履歴が十分に把握できていない
といった条件の建物について、
調査すれば、すべて問題なしという結果になることを前提に考えるのは現実的ではありません。
古い建物であれば、何らかの制約や問題が出てくること自体は珍しくありません。
そこで重要になるのが、
「問題があるか、ないか」ではなく、「どの程度の問題なのか」を把握することです。
例えば耐震性が不足している場合でも、
- 比較的小規模な補強で対応できるのか
- 大規模な補強が必要なのか
- 補強によって建物の使い勝手が大きく変わるのか
- 予定している用途と建物そのものの相性が悪いのか
によって、事業上の判断は大きく変わります。
本当に知りたいのは「どこまで手を入れれば、何に使えるのか」
既存建物を今後どうするか考えるとき、本当に知りたいことは、
この建物に悪いところがあるかどうか
だけではないはずです。
より重要なのは、
この建物にどの程度の費用をかければ、どの程度使える建物になるのか
という点です。
例えば同じ建物でも、
- 倉庫として使う
- 事務所として使う
- 店舗として使う
- 宿泊施設として再生する
- テナントとして貸す
では、求められる性能、法規上の条件、必要な改修内容は大きく異なります。
そのため、既存建物を再生・活用する場合は、
何を調べるかを先に決めるのではなく、最終的にどう使いたいのかを整理すること
が重要です。
5 STEPS
再利用・改修を考えるときの5ステップ
既存建物の活用では、いきなり耐震診断や改修設計から入るのではなく、
次の順序で整理すると判断しやすくなります。
→
目標を決める
→
投資額を考える
→
必要な検討を行う
→
最終判断する
ここが、既存建物の再利用や改修を考えるうえで最も重要なポイントです。
制約を知る
現在の建物について、できること・できないことを整理する
まずは、既存図面、確認申請資料、検査済証、現況などを確認します。
そのうえで、
- 構造上の制約
- 法規上の制約
- 現在の用途
- 劣化状況
- 増改築履歴
- 既存資料の有無
などを整理します。
この段階での目的は、最初からすべてを詳細に調べることではありません。
この建物を今後活用するうえで、大きな制約になりそうなものは何か
を把握することです。
既存資料の確認、現況調査、法規整理、構造上の制約確認などを通じて、
まずは全体像をつかみます。
既存資料確認/現況調査/法規整理/既存建物の構造評価
目標を決める
最終的に、どのような建物として使いたいか考える
次に、この建物を今後どう使いたいのかを整理します。
同じ建物でも、
- 現在に近い用途で使い続ける
- 別用途へ変更する
- 一部だけを活用する
- 建物全体を大きく再生する
では、必要となる検討や改修内容が変わります。
また、どこまでの性能を求めるのかも重要です。
最低限使用できる状態を目指すのか、
長期的な運用を前提として大きく改修するのかによっても、
設計の考え方は異なります。
建物の状態だけを見るのではなく、
その建物を最終的にどう使いたいのか
を明確にすることが、この後の判断基準になります。
改修方針整理/用途変更検討/意匠・構造・法規の横断検討
投資額を考える
事業として、どこまで費用をかけられるか整理する
建物は、技術的に直せるからといって、事業として成立するとは限りません。
例えば、大規模な補強や改修を行えば使用できるとしても、
その費用が事業計画に合わなければ、別の選択肢を検討する必要があります。
逆に、相応の投資が必要であっても、
その結果として十分な価値が生まれるのであれば、改修を行う意味があります。
そのため、この段階では、
この建物に対して、どこまで投資できるのか
を整理します。
投資額の目安がある程度見えていれば、
その後の調査や改修検討についても、現実的な範囲を設定しやすくなります。
改修範囲の技術整理/補強方針比較/設計条件整理
必要な検討を行う
調査・診断・改修内容を決める
ここまで整理したうえで、初めて具体的な調査や技術検討を決めていきます。
例えば、
- 耐震診断
- 構造補強の検討
- 現地調査
- 劣化調査
- 用途変更の検討
- 法適合性の整理
- 改修設計
などです。
耐震診断も、この中の一つです。
先に「耐震診断をする」と決めるのではなく、
何を判断するために、何を調べる必要があるのかを決める。
建物によっては、耐震診断より先に法規上の整理が必要な場合もあります。
反対に、構造上の問題が事業成立性を大きく左右すると考えられる場合には、
早い段階で耐震性や補強方法の検討を行った方がよい場合もあります。
建物ごとに、優先順位は異なります。
耐震診断/耐震補強/用途変更/適法化/12条5項報告/改修設計
最終判断をする
その建物を、今後どうするか決める
必要な情報がそろった段階で、
- そのまま使う
- 一部を改修して使う
- 用途を変えて再利用する
- 大規模に改修する
- 活用方法そのものを変更する
- 売却する
- 解体する
といった判断ができるようになります。
ここで重要なのは、
調査や診断をすること自体が目的ではない
ということです。
調査・診断・設計は、あくまでその建物を今後どうするか判断するための材料です。
最初から、すべてを詳細に調査する必要はありません
既存建物の相談では、
「まず耐震診断をして、現地調査をして、劣化調査をして……」
と、必要そうな調査を順番に積み上げてしまいがちです。
しかし、詳細な調査には当然費用がかかります。
そのため、
その調査結果を何の判断に使うのか
が決まっていない状態で、最初からすべてを調べる必要はありません。
まずは現在ある資料と建物の状況から、
- 何が大きなリスクなのか
- 何がまだ分からないのか
- 次に何を確認すれば判断が進むのか
を整理します。
そのうえで、必要な調査を必要な順番で行う方が合理的です。
古い建物に、すべてを解決する特別な方法があるわけではありません
既存建物の検討では、
- 何か特殊な計算方法はないか
- 補強せずに使える方法はないか
- 問題なしと判断できる方法はないか
という話になることもあります。
もちろん、建物ごとに条件は異なりますし、
設計上の工夫によって対応できることもあります。
ただし、古い建物に対して、
すべての問題を一気に解決する特別な方法があるわけではありません。
旧耐震建物であれば、耐震上の問題が出ることがあります。
既存図面がなければ、現況確認が必要になります。
法規上の問題があれば、その整理も必要です。
長期間使用されていない建物であれば、
劣化や設備の状態についても確認が必要になります。
大切なのは、問題を無理に「なし」にすることではありません。
どの問題が、どの程度あり、
どこまで対応すれば目的を達成できるのかを整理することです。
既存建物の検討で対応できること
既存建物の再利用や改修では、構造設計者が行う業務は耐震診断だけではありません。
例えば、
- 既存資料の確認
- 構造上の制約条件の整理
- 現状の構造的な問題点の把握
- 耐震診断が必要かどうかの整理
- 補強や改修の方向性検討
- 予定している用途との構造的な相性確認
- 必要な現地調査内容の整理
といった、初期段階の検討も可能です。
また、既存建物の活用では、
構造だけでなく、意匠、法規、設備、施工費なども関係します。
そのため、建物全体を見ながら、
まず何を整理し、どこから検討を始めるべきか
を決めることが重要です。
まとめ|「何を調べるか」より、「何を判断したいか」から考える
古い建物を今後どう活用するか考えるとき、
「まず耐震診断をしよう」という考え方は自然です。
ただし、耐震性が分かっただけでは、
その建物をどうするか決められないことも多くあります。
既存建物の活用で重要なのは、
問題があるかどうかだけではなく、
どの程度の問題があり、どこまで手を入れれば、
何に使える建物になるのかを整理することです。
→
目標を決める
→
投資額を考える
→
必要な検討を行う
→
最終判断する
当社では、既存建物について、いきなり耐震診断や詳細設計を行うのではなく、
まず既存資料や現況を確認し、
再利用・改修を検討するうえで必要となる調査や技術検討を整理するところから対応しています。
既存建物の活用・改修をご検討の方へ
何を調べればよいか分からない段階でもご相談いただけます
「耐震診断が必要なのか」
「既存資料だけでどこまで判断できるのか」
「用途変更や法規上の問題もありそう」
といった段階でも構いません。
まず現在分かっている建物条件や資料を確認し、
次に何を確認すれば判断を進められるのかを整理します。
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