このページでは、検査済証と12条5項の報告について、現時点における実態を説明いたします。ここでご報告させていただいている内容は、当社が、一般的にはこのように考えられているもの、というものを分かる範囲でまとめたもので、その内容の法的な正当性を説明しているものでは有りません。
建築基準法は実態に法整備が追いついていないる部分が多くある法律で、時代遅れの決まりや規制、非効率的な部分が残っていたりします。実際の運用としてはケースバイケースでその時々に関係する行政庁や設計者が判断をして運用しています。このあたりを踏まえ、あくまでも参考資料として見ていただければと思います。
– 2020/9/1 追記あり
1. 検査済証とは
検査済証(完了検査済証ともいったりします。以下検査済証)とは、建築物及びその敷地が建築基準法、及びその関連規定に適合していることを証明する文書で、建物の完成の際に、県や市、もしくは民間の検査機関での完了検査を経て交付されるものです。
原則として、完了検査及び検査済み証の取得は、建築確認申請の必要な建築行為のうち、用途変更を除く全ての行為に義務づけられています。
ですが、実態としてその取得率は下記グラフのようになっており、昔の建物は取得していないケースが非常に多いです。
平成10年時点でも、検査率が38%にすぎません。
公共の建築物と民間の建築物の割合や、建物規模によっての提出状況を考えると、これ以前の民間の建築物で、事務所や住宅など小規模な建物については、ほとんとの建物が取得していないという状況ではないでしょうか。
一般の方にはなじみが薄いので、確認申請書と検査済証を混同していることも多いです。
増築の相談を受けて、「既存の建物は完了検査受けていますか?検査済証ありますか?」と聞いた場合、「有ります!」と返事をいただいても、書類を確認したら「確認申請書」だった。。。ということは良く有ります。
2. 検査済証がなくて困ること
増築、改築、用途変更などを行う場合、敷地内にたっている建物は全て適法な状態であるという前提です(実態としても、手続きとしても違法状態がない)。
ここで出てくるのが検査済証で、通常は、一番最後に建物についての(※注1)検査済み証が存在することを以て、該当建物が確認申請の図面通りに建築された、つまり適法であることを証明します。
ですので、検査済み証がないと、該当建物が適法か、適法でない(違法状態)かどちらか分からないということになります。
審査機関や、特定行政庁としては、分からないものは認められない(確認申請の許可ができない)ということになりますので、検査済み証のない建物(敷地)の増築、改築、用途変更は原則不可能となります。
※注1 基本的には検査済証は過去の敷地内の建物の履歴をすべて引き継いでいきます。
例えば、A棟→B棟→C棟 という順番に建物が建築された敷地がの場合、C棟の検査済証は、A棟、B棟、C棟を含む敷地全体の内容について、確認申請のとおりに建築されているということが確認されたことになります。
3. 検査済証がない場合の対応策
前章で該当建物が検査済み証のない建物の増築、改築、用途変更は原則不可能だということをお伝えさせていただきましたが、第1章のグラフで示すように、実態として昔の建物はほとんど検査済み証をとっておりません。
昔の建物がほとんど検査済証を取っていない理由は、
・故意に完了検査の申請をしなかった。
・確認申請時の設計と異なる建物とした。
・そもそも、確認申請すら出していない。
などの、あきらかな法律違反ということもありますが、それ以外にも、行政側が検査済み証の取得を施主又は監理を行う設計士に取得を促してこなかった、ということがあります。
いろいろな見方があると思いますが、これは個人的には、行政庁が完了検査を行わないことを事実上黙認していたという背景が有るものと思います。
さらに建築物の品質は年々向上しており、新しい建物ほど寿命は長くなる傾向があります。また、建築材料費や人件費の高騰、職人の不足など多くの問題を抱えており、今までのスクラップアンドビルドのやり方のみでは時代のニーズに対応できなくなっています。
このような背景から、今ある建物をもっと有効活用していこという流れが高まってきています。(既存建築ストックの活用)
そこで実際の現場で行われるのが、既存建物の「改築」や「増築」になるのですが、前述したように、建築基準法の建前としては、検査済み証のない建物は原則、それ以降の増改築ができない当為ことになっています。
ですが、そのような対応は現実できではなくなってきており、そこでより柔軟に対応する為に用意されたのが、「12条5項の報告」(※注2)です。
※注2 建築基準法代12条 5項 の条文自体は以前からありましたが、そこに新しい意味を付け加え運用し始めた、という意味で新たに用意したと記載しました。
4. 12条5項の報告とは
建築基準法12条5項に「特定行政庁、建築主事又は建築監視員は、次に掲げる者に対して、建築物の敷地、構造、建築設備もしくは用途又は建築物に関する工事の計画もしくは施工の状況に関する報告を求めることができる。」とあります。
「報告」を「求める」ことができる、としか書かれていない、非常に広範囲な解釈が可能な文言です。法律上これをもって、建物の適法性を担保するということは一言も描かれていないのですが、実態としては、「適法で有る旨を報告してもらう」ことによって、検査済み証の代わりとなるような運用のされ方をしています。
つまり、
検査済み証なし → 適法性が確認できない → 12条5項の報告で適法な旨を報告 → 増改築許可
というのが一般的な形です。
また、法律上にその報告のやり方や調査の仕方の指定などがない為、各行政庁が要請する内容によって報告する内容は大きく変わります。
国としては、平成26年7月に、「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」というものを発行し、特定行政庁以外の指定確認検査機関でも法適合状況調査を行えるような一定の指針を示しています。
5. 12条5項の報告の運用実態
12条の5項の報告を行う目的が、主に増改築を行う為なので、当然その報告は適法である、という旨の報告をしなければなりません。
建物が違法な状態だった場合、その対応は行政によって変わりますが、適法化してから12条5項の報告を行うか、もしくは、適法化する是正計画を合わせて提出し、増改築終了後それを行政庁が確認する。などのパターンが有ります。
また、ガイドラインに沿った指定確認検査機関による法適合状況調査(ガイドライン調査)については、やっている企業がまだまだ少数というのと、まだまだ実績が少ない中で手探りな状態というのが実態であると思います。
一部の審査機関では法適合調査の運用実績が上がってきているように思います。行政でも民間の法適合調査の利用を促すところが出てきたという話も聞きます。が、やはりまだ全体の一部でまだまだ手探り状態が続いているように思います。
また、ガイドライン調査をすれば万事解決かというと、そうではなく、根本的な問題は行政に出す12条5項でも民間のガイドライン調査でも同じですし、民間のガイドライン調査をするための資料は、依頼主(たいてい施主の依頼を受けた設計士になると思います。)が用意する必要があります。
つまり現況が不明な建物であれば調査の上、図面化するなどして資料を整える必要がある、ということです。
参考リンク
ビューローベリタス 建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査)
6. 広大な敷地に多数の建築物がある場合
建築基準法上の原則論は、同一敷地内のすべての建物が適法な状態でないと増改築をすることができません。(手続き違反及び集団規定の観点から)
ただし、建築確認は原則、該当の建物の建築計画が、建築基準法及び関係規定に適合しているかどうかを確認するものです。
ですので、敷地内のほかの建物について、審査機関が逐一、細かく、チェックを行うということは通常ありません。
ですので、現状は該当敷地について明らかな無確認建築物や違反建築物が無い場合については、該当建物についてのみ適法性が確認できれば増改築が可能という運用実態になっております。
ただし、前願建物の検査済証があることが前提です。
該当敷地において完了検査をまったく受けていない場合は、行政庁や審査機関の判断にもよりますが、12条5項の報告を求められたり、設計者の責任において、申請外建物について適法であることの確認を求められたりします。
逆に、過去の履歴がいろいろあったとしても前願の検査済証があれば、それ以前の履歴は申請の際にいろいろ確認を取られるということは無いと思います。
ただし、申請の際に問題にならないことと、建築基準法違反を黙認することは別の問題です。
施主側の要望と法律の間で厳しい立場に追いやられる設計士さんも多いと思いますが、設計の際には設計士としてのモラルと職責をもって進める必要があると思います。
7. 堀口建築設計がお手伝いできること
これまで、1項から6項までで、私が業務を通じて把握している検査済証の無い建物やその敷地、また12条5項の報告の取り扱いについて説明させていただきました。
おそらくこのページを見ていただいた方は、施主から検査済証が無いといわれ、特定行政庁や審査機関から、12条5項の報告が必要になると言われ、インターネットで検索して、ここまでたどり着かれたのだと思います。
本ページにおいて、だいたいのイメージはつかんでいただいたかと思いますが、具体的に現在携わっている案件をどのように前に進めるか、という問題はこれだけでは解決しないと思います。
そこで、もしあなたの周りに、このような件に関して、依頼できる業者や適切な相談相手がいない場合、私たちに是非そのお手伝いをさせていただければと思います。
8. 無料12条5項相談サービス
弊社では、「無料」にて、あなたが現在かかえているお困りの点について相談に乗らせていただきます。
先ずはお問い合わせフォームより、「無料12条5項相談サービス希望」と記載し、お名前、連絡先、案件の概要を送信して下さい。
配置図や平面図を送信したい場合は、弊社のメールアドレスに直接資料を添付して送信して下さい。
内容を確認しまして、こちらからご連絡させていただきます。
どのように案件を進めていけばよいのかのアドバイスをさせていただきます。
※施主様からのご依頼に限ります。設計事務所、施工会社様などからの下請け依頼は下記ステップにて必要なタイミングで必要な経費を頂戴いたします。
また、案件名、案件情報を伏せての相談は受けておりません。相談者様の情報及び該当建物の情報を明らかにした上でご相談下さい。
業務の流れ、費用をいただくタイミングについて
一般的な12条5項の業務の流れは下記のようなものになります。
スタート
↓
ステップ0-1 先ずはメールや電話などでお問い合わせ
↓
ステップ0-2 資料を基に問題点の整理や実現可能性などについてのアドバイス(無料12条5項相談サービス)
↓
ステップ0-3 進めていく場合の流れの説明、ステップ1の見積り提出
ここまで無料
ここから有料
↓
ステップ1:事前調査
↓
ステップ2:詳細調査
↓
ステップ3:12条5項の報告業務、適法化計画作成業務
↓
ステップ4(ある場合):適法化の工事及びその監理
↓
ステップ5(ある場合):適法化完了の報告
↓
ステップ6(ある場合):本来の目的である増築や用途変更などの設計業務など
↓
ゴール
ステップ0までは無料ですが、ステップ1以降は基本的に費用が発生いたします。
業務は各ステップごとに区切り見積りを提出いたします。ステップ終了後成果品を提出し、今後の見通し及び次のステップの見積を報告させていただきますので、次のステップに進むかどうかを判断いただく、という形になります。
本業務の難しいところは、やってみたからといって、必ずしも望む結果に毎回ならないということです。
例えば、ステップ1→ステップ2と進めたが、その時点で致命的な問題が発生し、建物の適法化が困難又は、かなり高額な改修費用が必要で実質的に不可能である、ということが発生した場合、そこで業務終了とならざるを得ません。
ただし、そこまでにかかった設計費用はいただきますので、お客様としては調査に費用がかかるだけ、という状況になるリスクもあります。
目安として、ステップ1は、納期は1週間程度、費用はだいたい8万円~16万円程度を考えていただければと思います。
ステップ2はステップ1の結果により必要な詳細調査の数と種類が変わってきますので、金額や工期はバラバラです。
必要な詳細調査の例
・目視での建物状況調査(意匠、構造)
図面と実際が同じかどうか?
図面の通りの使われ方をしているかどうか?
図面にない増築や改築がないかどうか?
鉄骨やコンクリートの部材寸法
など、、、
・コンクリートコア圧縮試験
・配筋状況検査(非破壊 or はつり)
・基礎調査
・溶接部調査(超音波探傷試験など)
など、、、
ステップ2の結果が出れば、ゴールまで到達するためのルートが明確になってきます。
ステップ3では、ステップ2の調査をもとに建物の適法性を証明、または違反状況の報告を行ったり、改善計画の設計を行ったり、さまざまな業務に及びます。
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